京都観光コンシェルジュvol.22
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09 裏寺と呼ばれるエリアが京都にある。四条河原町と寺町という一等地の狭間で、昭和の頃はその界隈に雰囲気と匂いのある飲食店がビッシリひしめきあっていた。 鬼のように安い酒場、テールやスジの煮込み屋、何回も映画に登場した何軒ものお好み焼き屋、こわい人とおもろい人が混ざりあっていた鮨屋にフグ屋、長襦袢サロン、一杯が高い本気のコーヒーショップ、煙モクモクのカウンターだけの焼肉屋、ピンボールが60台以上ビッシリ並ぶゲームセンターは京都の十代の不良達でいっぱいだった。 昭和の裏寺はそんなところだった。現在はかなり変わってきたが匂いと名残りは充分に今も継承されている。 そんな裏寺のランドマーク的な「しのぶ会館」にこの店はある。角地にある会館の1階には全国の酒呑みの聖地「居酒屋たつみ」があり、2階3階にも魅力的な店ばっかりだ。 「百練」の開業は2002年で京都の店ではまだまだ小僧だが変なことをたくさんやってきた店なので、店に独特な空気が備わっている。扉を開けて階段を上がる壁の右側には一面に木村英輝さんが描いた壁画があり、左側にはニール・ヤングやニーナ・シモン、マービン・ゲイやマイケル・フランクス、憂歌団や南佳孝など新旧和洋のミュージシャンの名が筆で書かれた大きな紙京都市中京区浦寺町通四条上ル中之町572 しのぶ会館2F京都の漬物屋店主で酒場ライター。年末年始はたくさんの貝を食べて過ごし、2026年も変わらず街中パトロール実施中。今夜もあっちへこっちへハシゴの旅。札がビッシリ貼られている。毎週ここで開催されていた「聞いて語る祭」というイベントの残骸らしい。 店はカウンター席と4人掛けのテーブルが5つ。メニューは刺身やスジ煮や鮭ハラスや本気のヌカ漬、豚しゃぶや京の水菜鍋など特にたいしたことないけれど、胡瓜の古漬は土生姜と醤油とハイミーで最高のアテになる。そして何よりも「失敗しても、壊れても、あかんかっても、ええねん」というメッセージがこの店にはあるような気がする。 「百練」という店名は「百戦練磨」や「百花繚乱」からきてると思っていたが顔が昭和丸出しの店長に聞くと「創業者は100回練習ていうてました」と答えてくれた。 店は一期一会である。メニューも価格もサービスのパフォーマンスは、その店に行く人にとっては重要な要素だけどそれよりも俺は残念なことをご馳走だと思いたい。 気にしなかったらいいんです。なんでもいいんです。求めるのが多いといろいろ足らないという結果になって、喧嘩やストレスの原因になる。求めるものが多いと初めから損が確定してしまう率が高くなる。 あー、脱線しました。裏寺の百練で昼下がりから酒を飲むと「請われれば、一差し舞える人になれ」という梅棹忠夫さんの名フレーズが出てきます。 いい店というか、いい酒場には人を「素」にさせる空気とこんなことでいいのかというやるせなさがある。それでいいと思う。あー。日本を食べまわる写真家。あんかけ料理で底冷えの京都の冬を乗り切り、春が待ち遠しいところ。話題の映画について聞くとほぼチェック済で感想を教えてくれる。今も昭和の匂いが漂う裏寺。人を「素」にしてくれる食堂がある。バッキー井上ハリー中西バッキー&ハリーの〈百練〉地団駄はツイストで

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